第1部 SIM TOWN【井角町】解説
【井角町】の学習に必要な教材が「【井角町】KIT」(第2部)です。KITの内容構成は次のようになっています。
〈1〉KITの内容の紹介
この教材は、地域開発の現地調査(新潟県湯沢町や長野県野沢町など)によるデータや文献研究を踏まえて社会問題にかかわる諸要素及び諸要素の相互依存関係を井角町という場に置き換えモデル化したものです 2)。 具体的には、地域→「地図」及び「紹介文」、人々→「プロフィール集」、問題発生→「紹介文」及び「シナリオ」というように置き換えています。では、それぞれについて概要を紹介します。
1) 地図及び紹介文 2) シナリオ(1〜6) 3) プロフィール集(井角町関係者70人) 4) 調査用紙、学習プリント、評価用紙(配布資料) |
1)
井角町の紹介文及び地図は、架空の町である井角町の様子や歴史、社会的環境などの場(地域社会)の設定がしてあります。例えば、東京から190kmほど離れた人口約12,000人の町で、山と湖に囲まれた自然豊かな観光の町_といった説明と地図による場の設定になっています。
2)
シナリオ(1から6)シナリオは6つありますが、必要性に応じてシナリオを選んで使えるようになっています。シナリオは、この地域社会における問題提起(目標、課題の提示)をします。例えば、シナリオ1は「総合リゾート開発計画」です。このシナリオは、まず観光に頼ってきた井角町が伸び悩んでいることや、若者人口が減少してきているという問題状況をデータを交えて提示します。そして次に、「この町に東京の開発会社が投資額
350億円で、10階建てリゾートマンション2棟、ゴルフ場(18ホール)、その他スポーツ施設の建設計画を持ち込んだがどうすれば良いだろうか」と問題を提起する展開になっています。3)
プロフィール集(井角町関係者70人)プローフィール集は、井角町の関係者
70人(架空の人物)の紹介です。関係者のキャラクターは各シナリオの社会事象に対して立場や対応の異なる人物の条件設定がしてあります。例えば、リゾート開発会社社長、果樹(りんご)園経営者、警察署長等の人物設定です。各シナリオの内容に応じてプロフィールを設定しています。この人物を学習者が演じ、シナリオによる問題提起に対して意見を述べていくことになります。学習者が人物の条件設定を足場にして主体的・創造的に活動できるようにしています。プロフィールの一例を図1に示しましたのでご覧下さい。4)
調査用紙、学習プリント及び評価用紙学習プリントは、1から6まであります。これらは学習過程に沿って準備されています。井角町の問題の考察や、討論や意思決定、指導や教材、学習の評価のために準備したものです。また、調査用紙は、学習者のレディネスを把握するためのもので、評価用紙は【井角町】の教材としての評価や学習者の自己評価・相互評価を行うためのものです。これらの学習プリントや調査用紙、評価用紙への記述の変化や選択肢への回答を考察することによって、個々人の変容や学級の変容を把握することができます。データベースソフトや表計算ソフトなどを利用してパソコンで処理するなら、分析や考察は容易にできます。
〈2〉プロフィールについて
ここでは、「プロフィール」について若干の説明をしておきます。
学習者は、町の関係者としての役割を演じます(これを人間参加型のシミュレーションもしくは「ゲーミング」と言います)。この学習者の担当する役割は「プロフィール集」として設定されていますが、その一例を図1に示しました。このように、プロフィールは、人物の性別、職業、年齢、家族構成、自分史、価値観、趣味、居住地域などの要素から設定されています。これは役割演技者(学習者)にそれぞれ個別の活動ルール(個人のルール)を与えることになりますが、プロフィールに組み込まれたルールは学習者個々人の解釈を経て実行に移されますので、それぞれの個性が反映されて活動ルールを創造する部分も残されています。社会の一般的ルール(法律や慣習など)については、学習者の持つ既有の知識を背景にして現実社会のルールに基づいて【井角町】は現実をモデル化しています。しかし、現実とは異なる部分や現実を反映していない部分、捨象した部分もあります。例えば、井角町では支配・従属関係はなく各人物は対等な関係として設定してあり、親戚関係なども設定してありません。こうした現実の地域社会とは異なる部分もあります(こうした点は指導上の配慮が必要です)
3)。すでに述べたように、学習者は、町の住人・関係者(地域社会の構成要素の1つ)として他の要素を操作し地域の社会問題を再現します。「総合リゾート開発計画」や「高速自動車道路計画」に対して多様な見解や態度を示し、討論の場でそれらの開発の是非を活発に議論し代替案や修正案を提案します。相手を納得させるための根拠が必要となり調査活動も実施され、教材に設定された知識を超えて、学習者は新たな知識を自力で積極的に獲得するようにもなります。終了後、教師や学習者が、教授・学習活動や教材の分析・評価を行いますが、【井角町】という教材そのものに対する評価や指導や学習活動への評価を行わせることにより、今後の指導や学習活動にフィードバックされるようにもなっています。