シュタイナー学校における造形教育の実践

―日本の公立小学校の図画工作科への導入をさぐる―

シュタイナー学校における造形教育の実践

 吉田奈穂子 著
  


 A5判 112ページ 並製
 定価 1800円+税

ISBN978-4-921102-49-4 C3037

[発行所:NSK出版 発行者;新藤智]

 

 

目  次

1.シュタイナー学校の理論的前提
 1) シュタイナー学校の概要
 2) シュタイナー学校と特徴
2.シュタイナー学校の造形教育の特徴 
 1) シュタイナー学校における芸術教育の意味
 2) シュタイナー学校の造形教育の理論的基盤
 3) シュタイナー学校の造形教育の基本
3.日本のシュタイナー学校の造形教育の実践
 1) Aシュタイナー学校の造形教育
  @ エポック授業における造形的な活動
  A 専門教科授業における造形的な活動
 2) Bシュタイナー学校の造形教育
  @ エポック授業における造形的な活動
  A 専門教科授業における造形的な活動
 3) Cシュタイナー学校の造形教育
  @ エポック授業における造形的な活動
  A 専門教科授業における造形的な活動
4.公立小学校の図画工作科への導入の試み
 1) 先行研究の検討
 2) シュタイナー学校の造形教育の導入の手立て
 3) にじみ絵の実践
 4) フォルメン描画の実践
 5) 土粘土の実践


  はじめに
 現在の学校現場を眺めてみると、自分が子供であった時の教育とは大きく異なっている。電子黒板が教室に配置され、 教師が 電子黒板に写されたデジタル教科書を見せながら授業を行 い 、子供一人ひとりが鉛筆の代わりにタブレットを持ち、教師から与えられた課題に対する考えや答えをタブレットに打ちこんだり、タッチペンで書いたりしている。多くの学校には無線ランが設置され、パソコン室以外の普通教室でもパソコンやタブレットを使うことができ、現在多くの学校でICT教育の拡充が進んでいる。近年では、人工知能( AI )も登場し、教育現場への導入や活用も論じられ、研究も進められている。たとえば、絵画の中に入るヴァーチャル体験をしながら、美術作品を部分別に細かく鑑賞する図画工作科の体験授業も行われている。
 学校だけではなく、放課後や休日の子供の過ごし方も大きく変化している。町の様子も年々変わっていくように、子供たちを取り巻く周りの環境も大きく変貌してきた。私たちの周りの環境や生活は、 ますます便利になり、時短による効率化が図られている。「スローライフ」という言葉が聞かれた時期もあったが、それ以上に社会における効率化へ向かう勢いは強 い 。
 こうした科学技術の進歩は、 私たちの生活を豊かにし便利なものにしてくれる。しかし、その一方で人間が機械や技術の授業進歩によって奪われているものがあるのではないだろう か。たとえば、自分の手を使った作業や製作活動である。
 生活が「楽になる」ということの意味はさまざまではあるが、人間が動かなくてもよい、大変さが軽減される、動きがシンプルになるなどである。たとえば、携帯電話やパソコンを使っている時、人間の身体は硬直し、ある一定の動きしかしていない。手首を固定し、指先を体は硬直し、ある一定の動きしかしていない。手首を固定し、指先を動かすことが主である。私たちは生活が「楽になった」と感じていることの裏側には、人間自体が退化していく、そんな危険性をはらんでいるのではないか。けれども、 1 人 1 台以上携帯電話を持ち歩いているこの時代に、携帯電話を使わないという選択は難しいであろう。
 そのような時代や社会を考慮した時、人間の手を使って何かをつくる学びを提供している造形教育は、これからの時代により一層重要度を増し、必要とされる教科領域の一つではないだろうか。
 日本の学校教育における造形教育は、図画工作科と美術科の教科教育が主に担っている。小学校に関して言えば、学年ごとに時数は異な育が主に担っている。小学校に関して言えば、学年ごとに時数は異なるが、基本的には週に1時間または2時間である。しかし、各週で音楽科と図画工作科が入れ替わり、図画工作科の時間がない週があることも低学年より時数が少ない高学年では見られる。
 そのような日本の造形教育の実態と大きく異なるのが、国際的に発展し続けているシュタイナー学校の教育実践である。学校の創始者ルドルフ・シュタイナー( Rudolf Steiner, 1861〜1925 )は、学校教育に芸術を浸透させなければならないと言う。つまり、教科教育のみで造形教育を扱うのではなく、読み、書き、計算、教育全体で造形教育を含む芸術教育を行うということである。さらには、学校の教師のあり方として、「教育的な芸術家(Künstlerische Erzieher)」 でなければならないとも語っている。要するに、シュタイナー学校では、創始者の理念に基づき、学校教育全体に芸術を浸透させることによって、知徳体の調和的な人間形成が、1919年9月7日の開校以来、常に目指され続け、大きな成果は発祥の地のドイツのみならず、世界各地で示されているところである。今年で創立100年を迎えたが、その学校数が世界各地に1100校を超えて点在しているという事実は、この学校における造形教育の成果と成功を裏づける一つの証になっていると考えられる。
 では、いったい、学校教育における一教科としての造形教育ではなく、教育全体で重視されるシュタイナー学校の造形教育は、どのような内容と方法によって実践されているのか。この点を明らかにすることは、日本の造形教育のみならず、日本の学校教育にも、新しい時代に向けての抜本的な改善策のヒントを示してくれると考えられる。
 そこで、本書を通じて、シュタイナー学校における造形教育の特徴を明確にするとともに、日本の公立学校への導入の可能性をさぐり、これからの日本の学校教育や造形教育に対して、新たな風を吹き込みたいと願っている。
シュタイナー教育100周年を記念して
                       吉田奈穂子 


◆著者プロフィール

吉田奈穂子 (よしだ なほこ)
 奈良県生まれ。千葉大学教育学部小学校教員養成 課程卒業。
筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士後期課程 修了 [ 博士(芸術学) ] 。
ドイツニュルンベルク・シュタイナー学校教員養成課程 (学級担任教師修了)。
関西外国語大学 英語 キャリア 学部英語キャリア学科小学校教員コース 助教を経て、
現在、筑波大学芸術系助教。



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